筆者は店舗仲介業と店舗開業の両方の経験者です。以下実例を踏まえて説明します。
アパートやマンション(通称アパマン)などの居住用物件に比べ、事務所や店舗といった事業用物件を探すにはコツも必要です。どうやって探したら良いのか、業者の言いなりになるのではないかと不安でいる方も多いと思います。
そもそも店舗専門業者の絶対数が少ないのです。その理由として、店舗はアパマンとは異なって専門的な知識や経験が必要であるうえ、成約に至るまでの期間が長くなりやすいので割に合わないことが多いことが挙げられます。
とりあえず店舗専門業者に相談すれば大丈夫?
そうとも限りません。
確かに専門業者はたくさんの情報を足で稼いでいますが、取りこぼしも多くあります。それは、営業中の店舗は閉店までの間は情報をオープンにしたがらないことも理由のひとつとして挙げられますが、実際のところは、管理会社が情報を一定の期間だけは独り占めにしたいからだと思われます。
つまり、実際にテナントが退居するまでは早くとも3ヶ月、通常は6ヶ月程度です。その間に自社で次のテナントを客付けできれば、他決(他の不動産屋で客付けされること)された場合に支払う広告費を節約できるのです。
このように、一部の不動産会社や管理会社に物件情報が滞留している場合も少なくないのです。
したがって、店舗専門業者への登録と同時に、出店希望エリアにある地場不動産にもこまめに通って両方から情報を収集するように心がけましょう。これが一番の近道となります。
専門業者がない地域ではポータルサイトで店舗の取り扱い数がナンバーワンの不動産屋を当たってみましょう。
実際に内見する際のチェックポイント(チェクリスト)はこちらの記事を確認してください。
物件選びの注意点 チェックシート5選
① 立 地
理想のエリアで開業したいのは当然です。また、良く知るエリアも候補となるでしょう。
ただ、競合がひしめく場所では顧客の奪い合いも生じ、常に他店との差別化を図っていかないと生き残ることが厳しくなります。
お客は目新しいものに興味をもちます。最初は繁盛していたけれど、近くに別の新店舗が開店した途端に売上が減少していったなんて実例は沢山あります。
また、「初めて開業する方」と「1店舗目でお店のブランディングに成功し2店舗目以降を出店する方」とでは、同じ業態であっても立地に違いがありますので、単純に真似をするのは危険です。
② 階 数
おすすめは、1階(路面店) > 地下1階 ≧ 2階 > 3階以上の順になります。
これは客足の流動性(集客力)、つまり視認性から説明されます。
直立二足歩行する人間の視線は足の動きに合わせて、正面とやや下方向を繰り返しながら歩いているとの研究結果があります。つまり、人は無意識には2.5m以上の高い場所を認識しないのです。そのため、2階以上の店舗は大きな看板やネオン等を用いることによって意識を向かせようとしています。飲食店のメニューでも、文字だけの情報よりも写真やイラストがある方が多く注文されるますよね。これも人間の直感に訴えた視覚効果です。
よって、1階に看板を設置できる地下1階は2階に比べて優位といえるでしょう。
この一見アナログともいえる視覚効果ですが、まだお店にブランディング力がない初めての出店の場合には階数も意識して選びましょう。
2階でも視認性に優れた造りのビルもありますが、賃料は地下1階の方が2階よりも安い場合も多いのです。
Point
物件探しにおいて、候補とならない階数を全て除外してしまうと希少(お宝)物件に出会う確率を自ら消してしまうことになります。階数は限定せずにある程度の幅を持たせることも大事です。
③ 賃 料
店舗の場合はアパマンとは異なり消費税がかかります。同じ建物であってもアパマンよりも管理費(共益費)が多めに請求されるケースも少なくありません。
管理費(共益費)は賃料の10%以下の物件が多いですが、繁華な商業ビルでは20%を超える場合もありますので注意してください。
その他に、看板設置料や駐車場料金が月々発生するケースもありますので、想定家賃に含めて計算しておくと良いです。
また、同じ物件であっても物販の場合は飲食に比べ賃料が10%程度安く設定されることも多いです。
Point 固定費は営業努力では変えることができない項目です。不動産屋にそそのかされても賃料の上限は必ず死守してください。リスクを負うのは不動産屋の方ではないですから。
④ 形 態
賃貸借契約には2種類あります。「普通借家契約」と「定期借家契約」です。
この違いを理解していないとトラブルの素になりかねません。
「普通借家契約」は、契約書には店舗用賃貸借契約とか事業用賃貸借契約などと書かれています。この契約は借地借家法という法律によって、貸主よりも借主の方が強く守られている契約形態となっています。具体例を挙げると、貸主は正当な理由(正当事由)が認められなければ借主を追い出すことができません。つまり、一度借りてしまえば法定更新され続ける可能性が高いのです。この正当事由を補完するために多額の立退き料を支払うことを約束する場合もあるほどです。
「定期借家契約」は反対に借主よりも貸主の方を強く保護する契約形態です。契約で定められた期間を過ぎたら強制的に退居となります。もちろん立退き料を受け取ることもできません。さらに、原則として中途解約できないため、この契約期間内においては賃料を支払い続けなければいけません。この違いを理解していない事業者も多く、近年増えている相談事例となっています。
では、定期借家契約の物件は借りない方が良いの?
そういうわけではありません。
近年増えているこの定期借家契約ですが、特約を設定するケースが多いのが特徴です。
定期借家契約にはそもそも契約更新という概念はありませんが、再契約という裏技があります。借地借家法の趣旨からすると正式な契約形態とは言えませんが、特約において再契約を謳うことが実務上一般化しているのが現状です。
よって、再契約型の定期借家契約かどうか、契約期間は何年かどうかについては必ず確認するようにしましょう。
⑤ 面 積
客席(または売り場)と厨房(またはバックヤード)の割合は一般的に
・物販店等 9:1
・飲食店 7:3
・軽飲食店 8:2
が理想とされています。
飲食店の場合は従業員の着替えや休憩スペース等の確保にも注意してください。実際に想定される動線(オペレーション)をシミュレーションしてから設計計画を練ることが非常に大事です。
よく目安とされる10坪(33㎡)は意外と狭いので、狭小物件になるほど知恵も必要となります。また、居抜きとスケルトンとでは体感する大きさは異なるので併せてご注意ください。