筆者は店舗仲介業と店舗開業の両方の経験者です。以下実例を踏まえて説明します。
前回では、開業資金(初期費用)について説明しました。今回は事業計画書(創業計画書)について突っ込んで解説していきます。
今では事業計画書の作成代行を行ってくれる業者もあります。助言を貰ったり体裁を整えるうえでこうした業者を活用するのは良しとしますが、血や骨となる核心部分については時間を掛けてでもご自身で作成してください。
人生の設計を他人任せにする方は、いざという時にも他力本願のままです。金の切れ目が縁の切れ目。自力で這い上がっていける力が必要です。
事業計画を立案・作成するという作業は、既に経営に参画しているようなもの。
この段階での失敗や気づきは後の財産となります。
審査に落ちる事業計画書(創業計画書)には共通点がある
① 開業の動機が曖昧
ダメな記載例
・独立するのが長年の夢であり、良い物件にも出会えました。常連客からも背中を押されたことも大きいです。
良い記載例
・独立を最終目標に6年の間、専門技術だけでなく店舗経営のノウハウを学んできました。常連のお客様からの指名も増え、自信と経験を積み上げていくことも出来ました。また、居心地の良い空間を演出できる駐車スペースも完備した路面店舗にも出会い、このタイミングで私の実力を発揮できるものと自負したことが大きいです。
② 職務経歴が定型的
ダメな記載例
令和〇年△月 〇×△商事 入社
令和〇年△月 〇×△商事 退社
良い記載例
令和〇年△月 〇×△商事 入社
入社2年目でチームリーダーに抜擢され、商品開発に従事。4年目には店長に昇格し人材の育成や店舗経営のノウハウを学びました。5年目には売上がエリア内で1位を記録。給与は1年目25万円、2年目30万円、4年目からは40万円プラス出来高。
令和〇年△月 〇×△商事 退社
退職金は150万円。退社後は、独立準備のほか、競合店の視察や市場調査を行っています。
③ アピールポイントが薄い
ダメな記載例
アットホームな雰囲気で誰からも愛される店内をイメージしています。また、厳選した商品を仕入れたり割引クーポンを発行したりすることも考えています。専門誌にも定期的に掲載していきます。
良い記載例
京町家と北欧のイメージを取り入れた店内で、お一人様でも入りやすいゆとりのある空間をイメージしています。また、はじめてのお客さまには無料版と格安版の2つの体験コースを設定し、入店しやすい店舗づくりとします。
常連客にはエグゼクティブコースを用意し、独自に開発した〇△を体験してもらうことで飽きのこないサービスを提供していきます。
④ 自己資金が少ない
ダメなケース
開業資金の20%以下の場合や定期的な貯金額を通帳で確認できない場合は不利となります。また、タンス預金は見せ金とみなされますので印象が悪いです(経験済み)。事業とは関係のない借入があることもマイナス要因となります。
良いケース
日本政策金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」のデータによると、自己資金の割合は24%となっていますのでこの数値に近づけましょう。
収 支 計 画 の 書 き 方
収支計画を初めて作成する方は戸惑って当然のことです。
開業初年度は黒字にならないことも多いですが、赤字の計画書では審査に通りません。
実現可能性のある現実的な指標を以下のとおり例示しておきますので参考にしてください。
大企業や経営が軌道に乗っている企業の指標はあまり参考にはならないですから、これは個人事業者または小規模法人を想定したものとなっております。
筆者の場合は、実際の店舗の指標を基に落とし込んだのですが、この指標と若干の差異はあったものの大きなブレはなく一発で審査を通過できました。
下記の表は売上高を100とした場合の各項目の割合です。
飲食店 | 小売店 | 美容店 | IT関連 | 建築関連 | 福祉関連 | |
①売上高 | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
②売上原価 | 35%(※1) | 60% | 15% | 30% | 65% | 8% |
人件費(※2) | 25%~30% | 6% | 10%~18% | 35% | 20% | 57% |
家賃 | 8% | 8% | 7%~10% | 5%~7% | 3%~4% | 9%~12% |
支払利息(※3) | 1% | 1% | 2% | 1% | 0.3% | 1% |
その他 | 20% | 6% | 21% | 25% | 8% | 20% |
③合計 | 55%前後 | 21% | 45%前後 | 65%前後 | 31%前後 | 88%前後 |
利益①-②-③ | 10%程度 | 19% | 40%程度 | 4%程度 | 4%前後 | 2%~5% |
※1 カフェ25%
※2 人件費には、個人事業主の分は含みません。利益から支払われます。
※3 返済額のうち、元金部分は利益から支払われます。
事業計画書(創業計画書)は3パターン作成しなければならない理由
融資を受けるためだけに事業計画書(創業計画書)を作成している方は多いものです。他人に見せることを目的としていますので、どうしても色を付けやすくなります。
経営は生ものです。良いことしかり悪いことしかり、想定外の事は往々にして起こります。
よって、①楽観バージョン、②現実バージョン、③悲観バージョンの3パターンを作成することが必要です。
実際に経営してみて分かったことは、楽観バージョンとなるのは年に数回だけであり、通常は現実バージョンと悲観バージョンの間であることが多いことです。
また、上記の表では、経費項目に「その他」としてまとめていますが、その内訳をより具体的に把握しておかなければなりません。
具体例を挙げると、広告宣伝費・交通費・郵送費・交際費・外注費・消耗品及び備品費・清掃品費・ごみ処分費・クリーニング費・税理士及び社労士顧問料・駐車場使用料・リース費など多岐に渡ります。
ま と め
金融機関は「事業の持続可能性」と「貸付額の返済能力」からあなたを判断します。
これから開業なさる方は何も実績がありませんので、アピールポイントがこの実績の代わりとなるのです。
よって、①店舗、②立地、③商品、④価格の4つについてより具体的に説明(アピール)できるように準備しておくことが肝要となります。